歯根膜は、歯の根の周りを取り囲む組織で、歯と歯槽骨(顎の骨)をつなぐ厚さ0.2~0.3ミリの非常に薄い組織です。歯の健康と機能において極めて重要な役割を果たしています。歯根膜は、コラーゲン線維を主体とした結合組織で構成されていて、セメント質(歯根の表面)と歯槽骨(あごの骨)を結びつけています。この線維は「シャーピー線維」と呼ばれ、歯を安定的に支える役割を果たしています。また、歯根膜には血管や神経が豊富に分布しており、栄養の供給や感覚を伝える機能も持っています。以下に歯根膜の主な役割をお伝えします。
① 衝撃吸収(クッション機能)
歯根膜は噛む際にかかる力を吸収・分散し、歯や歯槽骨への過剰な負荷を防ぎます。この機能により、硬いものを噛んだときでも歯や骨が損傷しにくくなっています。
② 感覚センサー
歯根膜には触覚や痛覚があり、噛む際の硬さや食感を感知して脳へ伝えます。これにより、私たちは食べ物の「歯ごたえ」や「硬さ」を感じることができます。また、異物が口の中に入った時にも敏感に感じることができます。
③ 噛む力の調整
歯根膜は微妙な揺れを生じさせることで、噛む力を適切に調節します。この働きにより、過剰な力がかかることなく効率的に咀嚼(食べ物を嚙み砕く)ことができます。
④ 歯と骨の結合
歯根膜はセメント質と歯槽骨をしっかりとつなぎ、歯を安定的に保持します。この結合があることで、歯が抜け落ちたり大きく動揺することを防いでいます。
⑤ 栄養供給と再生能力
歯根膜内の血管は周囲組織へ栄養を供給しています。また、一部の再生能力(骨やセメント質、歯槽骨などの細胞に分化し、歯周組織全体の再生に寄与する)を持つと言われています。
歯根膜は食事中の快適さだけでなく、咀嚼による全身への影響にも関与しています。例えば、噛む刺激が脳へ伝わることで、認知機能にも影響を与えるそうです。しかし、歯根膜は一度失われるともとには戻りません。例えば、抜歯後に行うインプラント治療では、天然歯の歯根膜と同じ感覚機能やクッション効果は得られません。そのために、虫歯や歯周病予防による天然歯の保存することがとても大切です。
このように、歯根膜は単なる薄い組織ではなく、「クッション」「センサー」「固定」などのいろいろな役割を担っています。